タイトルのテキスト
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Dark Knight- 闇夜の庭の物語 ルースセレクトオーダー

2024年12月26日木曜日

ルースセレクトオーダー-完成品- ルースセレクトオーダー用-ルース-

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闇夜の庭


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いつも通いなれた道。


美しい花が咲き誇る

広くて大きな庭。


季節ごとに彩られる景色。


いつ来ても。

この庭は、見応えがあって美しくて。


来るたびに、嬉しくなる。

お気に入りの場所。



だけど、今日は少しばかり。

悲しい出来事があって落ち込んでいたからなのかな。


帰りたくないなぁ〜……


そう思いながら

庭のベンチに座って景色を眺めて。

まごまごしていたら。


気づいたらもう。

日が暮れかけてしまっていた。


そんなまさか。と思うよね?


さっきまでの青空は、途端に

早送りしたような夕焼け色に変わり。


太陽は、物凄いスピードで沈んでゆく。


こんな光景、見たことない…。


呆気に取られる暇もなく。


猛然としたスピードで。


この庭に闇夜が、迫るに連れて――



咲き誇った美しい花々も。

暗がりの夜にすっかり染め上げられ。


次第に、毒々しい色へと変化していった。


木々の枝ぶりは、

空を突き刺すかのように鋭く尖り。


もうとっくに見慣れていたはずの。

馴染みのはずの。


昼間の美しい庭を。

夜の闇が引き裂いていくよう。



――世界は、あまりに突然に、

様変わりしてしまっていた。



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静寂の中。



コツコツと。

自身の足音だけが妙に大きく響いて。

段々と、歩く度に恐ろしさが増している。



だれも…いないの?


とっくの昔に。

帰り道を見失ってしまっていた私。



空を見上げても。

星も月も見えはしない。

吸い込まれそうな、漆黒の空。


月明かりもない暗闇の中で

目を凝らしながら歩くにつれて。


気のせいなのかな?


自分の目線が、いつもより低く。

背丈がちいさくなっているような気がした。


灯りもないまま。

月明かりもないまま。


どれくらいの時間

この庭を彷徨っていたんだろ。


昼間に青い空を写していた

美しい大きな泉でさえ。


今は、水面が漆黒に染まり。

ゆらり、ゆらりと

不気味に揺れて


近づくのさえも、恐ろしい。


暗闇に重なるように、

何かの大きな影を見つける度に


怖くなって、何度も何度も引き返してる。


あてどなく。

ただひたすらに。


この闇夜の庭に。


ひとりぼっち…。



いつもの道。

いつもの庭のはずなのに。


どうして…帰れないの?



次第に歩き疲れて

うずくまってしまっていた。


もう歩けない。

どこに行っても、怖い。

今にも、泣き出してしまいそう。


なんだか、身体も心も。

子供に戻ってしまったみたいに。


どうしようもなく、心細くて。


――誰か…助けて…。


夜の闇に気押され

大きな声を出す勇気もなくなっていた。


うつむいて小声で呟きながら。

心が折れてしまいそう。



そんな時だった。



ふいに、ヒラヒラと。


淡い光を帯びた紫の蝶が。


私の前を何度も、何度も。

通り過ぎては、また

こちらへと舞い戻ってくる。


きれい…。


思わず、私は手を伸ばしていた。


小さく淡い紫の光は


静かな月のない夜には

ことさら綺麗に感じられる。


闇の世界の中での

唯一の光。


その蝶は、私が伸ばした手の指先にとまり。

再び、ヒラヒラと飛びはじめた。


こっちだ。


まるでそう言って。

帰り道を教えてくれているかのよう。


やさしく。柔らかく。

淡い光。


もしかして……

慰めてくれてるの?


顔を上げて。

その蝶を眺めると。


あんなにも毒々しかった。

庭の花も木々も…!


ヒラヒラと飛んでいる

蝶の光の鱗粉が、静かに落ちていき。


微かに。

優しい紫色の光を帯びてく。



なんて…きれいなんだろう…!



思わず涙を拭って。

私は、立ち上がっていた。


歩きだす度。

私の周りを飛ぶ蝶と共に。



キラキラと世界が、煌めいていく…!



楽しげに舞う紫の蝶に、


そっと。

「素敵だね」と語りかけると。


蝶は、とても嬉しそうに、

私の周りを、何度もぐるぐるとまわってくれた。


その瞬間。


淡い光を纏った

この紫の蝶と。


友達になれたような。

心が通じ合ったような。


そんな気がして。


ひとりぼっちだった私の心にさえ。

光が差したような気持ちになった。



不思議ね。


あなたといると。


あんなにも恐ろしく感じていたこの庭が。

今はとても、美しく感じられる――


闇の世界はやがて、

ゆっくりと。


柔らかな紫色の光を帯びた

神秘的な光景の庭へと変化していった。


友となった。

淡い光の蝶に、導かれるまま。


そして。いつの間にか。


巨大な鉄柵のゲートの前に。

私はたどり着いていたのだった。



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「しかし、これまた随分と…。

好き勝手にウロウロしてくれたね、お嬢さん」



まるで、闇に影を重ねているように。

その声の主の姿は朧げで、よく見えない。


ヒラヒラと私の周りを舞っていた紫の蝶が。

慌てたように、影の人の方へと一目散に飛んでいく。


誰かが、助けに来てくれた?


そう思った瞬間。


あまりの心細さに。

急に気持ちが込み上げて。


私は思わず、怖さよりも何よりも。

ずんずんと、その影の人に駆け寄っていってしまった。


帰りたいんです…。

でも帰れなくなっちゃって。

助けて欲しくて。

どうか、帰り道を教えて欲しくて。


我ながら情けないほどに。

子供みたいに大きく声をあげて

泣きながら伝えると。


私のその姿が、影の人にはよっぽど哀れに見えたのかな。

急に、驚いたような、面食らったような態度に変わった。


影の人は、黙って私の話を聞いてくれて。

慰めるように。

やれやれと言わんばかりに。


――なんだ。

お前は、この庭の外の住人か。

帰れなくなったって?

そりゃあ…災難だったな。


知らずに迷い込んだのなら

怖かったろう。


ここはな、訪れる人の

心の闇を映し出す庭だよ。


その心の有り様で、

この庭は如何様にも変化するんだ。


それを管理するのが俺の仕事ってわけ。



姿の見えない、影だけのその人は。

ひとしきり泣いた私を落ち着かせるように。


淡い紫色に染まった庭を見渡すように動きながら。


しかし、いくら迷い子とはいえ。

訪れた者の心を映し出す庭とはいえ。


これじゃあ闇の庭というよりも。

紫の庭じゃないか!


影の人は、淡い紫色に輝く美しいこの庭を見て

呆れたように笑っていた。



――そうだ。

さっき、帰りたいと俺に言ったろう?

ならもう大丈夫だ。


ほら、これを。


影の人は私に、そっと。


小さな花を差し出した。


それは次第に、淡い紫の光を帯び。

私が花に触れると途端に、

ヒラヒラと飛びはじめ。

蝶へと変わった。


「わっ!!さっきの蝶…?」


驚いた私の顔を見て。


また。

その影は、少し笑ったような気がする。



――俺はこの庭の管理人だよ。

お前のような迷子を帰すのも、俺の仕事。


この場所にくるのはちょいと

早かったようだな。お嬢さん。


いつか、己の闇と対峙する覚悟ができたら。

また来い。


その時は、

俺がこの庭を案内してやる。



ゴゴゴゴゴっと。大きな音を立てて。

錆びた鉄柵のゲートが開いた。


さぁ。

このゲートを通っていけ。


次は、その蝶をしっかり追っていくといい。


今度こそ。

きっと帰れる。


もう…迷い込んでくるなよ?



夜の闇に紛れて見えない人影。

その表情は、何も見えはしないのに。


私を見送るその声だけは。

なんだか、寂しげに聞こえた。


月の光すら届きそうもない。

闇夜の中に

紛れてしまいそうなほどに儚く。


これが、姿さえも見えない。

闇夜の庭の管理人との出会いだった。



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Dark Knight

ー闇夜の庭の管理人ー



あれは…やはり迷子なのか?


はぁ。面倒くさい。

今宵は余計な仕事が増えそうだ。


本来ここを訪れる者は、

“自らと向き合う為”

それなりの覚悟を持って来る。


ここは、“そういう空間”なのだから。


しかし、何の因果なのか。

稀に、”それを知らず”に迷い込むヒトがいる。


大抵そういう奴は。

知らず知らずのうちにここに繋がり。

しばらくすると、勝手にこの闇に恐れ慄き。

一目散に逃げ帰ってゆく。


今回もそうだろうとタカを括って

仕事をサボった俺がいけなかったのか?


あの子は、

随分とここにいる時間が長いな…。


やはり。

迷っているのか。



“帰りたいのに

 帰りたくない”


その心の矛盾が具現化して

帰り道を見失わさせている。


闇に囚われ。

恐れに心を支配されかけて。


このままでは、あの迷い子は……。



さて、放っておいて良いものか。



ああ、今宵は仕事が増えるな。

面倒くさいこと、この上なしだ。


あれでは疑心暗鬼になって。

今、俺が出てきたところで。

余計に、怖がらせるだけだろう。


もうしばらく様子を見るとするか。


あくびして寝転びながら。


庭に咲いていた小さな花を無造作に一輪、

摘み取った。


この世界では、

どんな花の色もどす黒く見えてしまうなぁ。


だが、俺がちょいと魔法をかけてやれば。


ほら、この通り。


黒い花の花弁は

ヒラヒラと羽のように動き始めて変容し。

淡い紫の光を帯びた蝶に変わった。




これならば。

あの迷い子でも、怖がるまい。


蝶を使いに飛ばして

“あとは頼んだ”


これで仕事は完了だろう。


いつもの宵闇。

月のない静寂の世界。


俺は、ちょっと眠るとするか。


目覚めた頃には、あの迷い子も。

帰ってしまっている事だろう。


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なんだ、これは。。。?


ちょいと居眠りをしていた間に。


世界は、淡い光を帯びた紫色の景色に

様変わりしてしまっていた。



この庭の管理者になって随分と経つ俺も。

一瞬、何が起こったかわからずに。

呆気に取られていたと思う。



俺が使いに出したはずの紫の蝶め!

あいつは一体なにをやっている!!


迷い子に ”帰り道を導く為” の蝶の光。

俺のかけた魔法が、チラチラとそこかしこに散らばって。ああ、片付けるのが面倒くさそう。


しかしながら。俺が寝てる間に


あの子があれほど、恐れ。

怯えていた心は、何処にいったというのか。


迷い子は、”帰る”どころか。


使いの蝶と随分と仲良く。

楽しそうに、嬉しそうに

この庭を歩き回っていた。


帰り道を教えるための、蝶の光の鱗粉が

星のように、そこかしこに散らばって。


夜闇の世界は、少しばかり。

煌めいてしまっているではないか!



いかん。。これは仕事をサボりすぎた。

さっさとあの子を帰さなければ。



だが…しかし。


この光景。


俺のこの気持ちは。

どうした事だろう。


改めて思えば。


長年、いくら手入れをしていても。

誰も見てくれる事のなかった。

闇の庭。


何を植えても。何を手入れしても。

全てが闇に染まって、無意味な世界。


ここでは、それが当然の事で。

気に留める事さえもなくなっていた。



それを。

なんとも、嬉しそうに。楽しそうに…。


蝶の鱗粉で。

淡い紫の光の色に輝いた。

この庭を。


俺が手入れしていた木々や花々を。


眺めてくれている。


使いの蝶と共に、

この世界を歩きながら微笑んでいる。


あの迷い子が。


悔しいけれど。

俺には少し眩しく


そして…嬉しかったのだ。



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「随分と好き勝手にウロウロしてくれたねお嬢さん」


俺が姿を見せたなら、あの迷い子は再び怖がるかもしれないが。

それがキッカケで”帰りたい”と心から思うようになるなら、それも良い。


そう思い、迷い子に声をかけた途端。


あの子を”帰す”どころか、あろうことか、”一緒に遊んで楽しんでいた”のが俺にバレて。

我に返った使いの蝶が、即座にバツが悪そうに、申し訳なさそうに。

一目散にこっちに飛んできやがった。


“お前は何をやっていたんだ!”


仲良くしていた蝶が俺の元へと飛んできた事で。

あの子はどうやら、姿はどうあれ俺のことを”信用できる”と思ったらしい。


大粒の涙をこぼしながら。

帰りたい。助けて欲しいと。

俺の目の前で、

堰を切ったように泣く迷い子を

慰める羽目になってしまった。


ああ…全く面倒くさいな。


お前はもう、とっくに帰れるんだよ。

今は心からそう思っているのだから。


迷い子の中にあった矛盾と”迷い”は。


使いの蝶と楽しく遊んでいるうちに。

いつの間にか、なくなっていたらしい。


あとは、”帰れる”と信じるだけで良いんだ。

仕方ない。そういう演出をしてやるか。


バツが悪そうにしゅんとして

花に戻ってしまっていた紫の蝶を。

再び、あの子に使わして見送りをさせることにした。

“今度こそ頼んだ”からな。


俺は、少し大げさに庭の鉄柵のゲートを開放してやった。

あの子がちゃんと、”帰れるように”



――もう…迷い込んでくるなよ?



庭を”紫の光に染める迷子”なんて、

もう御免だよ。と、呆れながらも。


撒き散らした鱗粉を片付けるにつれ。

闇の世界が、静寂を取り戻すに連れて。


目の前から遠ざかっていった

あの迷い子の後ろ姿と。


この庭を眺めながら喜ぶ姿が。

脳裏に焼きついて、いつまでも離れなかった。


俺に顔があったのなら。

思い出すたびに。


思わず笑みが、溢れていたかもしれない。

何度も…噛み締めるように。


そうだ。もしも。

次に迷い子が訪れる時が来たなら。



新しい花を植えておこうか。

庭木の種類も増やしてやれば。

あとは、

使いの蝶も沢山いれば……


………。


おっと。いかん。



ここは、訪れる者の

”心の闇を映し出す庭”


俺の仕事は、庭の管理をするだけで。

俺の意思など…意味をなさない。


月の光すら届かぬこの庭で。


俺の存在など。闇夜の中に

紛れてしまうほどに、儚いものだ…。


だけど…。


だけどさ……。



――たまには…いいだろ?

ここは俺の、自慢の庭なんだ。


ふわりと。

紫の蝶が、俺の目の前で。


そうだそうだと。

賛同するように。

頷くように、上下に飛んでいる。



これが。


漆黒の世界の闇夜の庭と、

俺の心に

小さな光をもたらした。


迷い子との出会いだった――






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